以前は誰にも言えずに我慢して泣き寝入りすることが多かったパワハラ被害も、今や大きく取り沙汰される様になり、多くの被害者が訴訟を起こすことができるようになりました。
それによって訴訟の判例も周知され始め、被害の状況や判決等をオープンにすることによって、パワハラ被害も多少減少しましたが、まだまだ多くの訴訟が後を絶ちません。
パワハラとは自分には関係ないと思いがちですが、判例を見てみると、とても身近に潜んでいる事が分かります。ちょっとしたことで加害者にも被害者にもなり得るのです。
では判例から見たパワハラとは、どんな被害があるのでしょうか?
身近に潜んでいる!?パワハラ5つの判例
会社に勤めていると、人間関係で多少の揉め事は起きます。それが徐々に大きくなり、最終的に精神的・肉体的苦痛を受け、パワハラへと発展していく訳ですが、パワハラの判例を見てみると、最初は些細な問題がエスカレートした結果だと言う事が分かります。
今回は、身近に起こり得るパワハラの判例を5つご紹介します。
1.川崎市水道局事件
パワハラの判例で一番有名なのが、川崎市水道局事件です。
上司3人によるパワハラで、1人の上司が被害者に対して聞こえるように陰口を言ったり、卑猥な言葉を浴びせたりしたときに、他2名の上司が止めることなく一緒に図に乗って同調してからかった事により、精神的苦痛を受け、結果被害者は自殺を図りました。
加害者にとっては、ただふざけているだけでも、多くの人の前で辱められたりすることは、被害者には大きな苦痛を伴います。ただ見て笑っているだけでも、加害者となりうるのだと世間に知らしめたパワハラ裁判です。
加害者3人は、裁判でパワハラはなかったと訴えましたが却下。東京高裁では、加害者3人が勤務する川崎市にも責任があるとの判決が下されました。
2.松蔭学園事件
このパワハラの判例は、企業で起ったのではなく、学校法人という教育現場で起った為、記憶に残る判例と言えるでしょう。
事の発端は、被害者が2度産休を取得した事と、復帰後の対応が悪かったと言う理由から始まった、学校側の嫌がらせです。担任や担当授業等、全ての教職任務を剥奪、他の職員と接しない様に4年以上に渡り部屋を隔離。その後7年間自宅研修を命じられた事によって、精神的苦痛を与えられたと被害者側は訴訟を起こしました。
この判例は、長期間教職に就けない状況を与えた上、隔離する等、違法性が高く、業務命令の濫用に値すると被害者側の主張が認められ、東京高裁は損害賠償を支払うように命じました。しかし裁判記録には、被害者側にも反省すべき点があると記されています。
パワハラ行為は、絶対にしてはいけません。しかしパワハラの被害にあった場合、被害者自らの行為を見直す事も必要だと教えてくれた判例の1つです。
3.国際信販事件
国際信販事件とは、社内全体で被害者を退職に追い込む様、長期間嫌がらせをした判例として有名です。
被害者の悪い噂を上司が社内に流したと会社側に相談しても、何も手段を講じてくれず放置されたり、繁忙から業務改善を求めても改善策は取られずじまい、社内で侮辱的発言を受けたりと、被害者は精神的に追いやられ鬱病を発症。退職を余儀なくされました。
東京地裁は、会社側に非がある事を認め、慰謝料の支払いを命じました。
この判例の焦点は、会社側がパワハラ被害を知っているにもかかわらず、何も改善策を取らず放置していたと言う点です。本来、会社側は従業員の盾にならなければいないのに、会社さえも加害者になっていたと世間に示した判例の1つです。
会社だけが相談窓口ではありません。パワハラを受けた場合、労働基準監督署や公的窓口への相談を利用することも必要です。自分の身は自分で守るということを、考えさせられる判例と言えます。
4.ネスレ事件
誰もが知る大手企業で起ったパワハラ被害の判例です。
工場内にある部署が閉鎖するにあたって、従業員に対して他の工場への配置転換を命じました。しかし家庭の事情から配置転換を拒否した従業員に対して業務を取り上げ、他の従業員と話をしない様に机を隔離したり、「トイレ以外うろうろするな」等の暴言を吐き、従業員に対してパワハラを続けました。
被害者は労働組合を通して、会社側にパワハラの改善を求めましたが、会社側は対応に応じず。神戸地裁に精神的苦痛を受けたとし、損害賠償の訴訟を起こし、会社側に対して慰謝料支払いの判決が下されました。その額60万円です。
裁判では、家庭の事情があるにせよ、配置転換の違法性は認められませんでした。しかしパワハラ被害と言うのは、想像を絶する精神的ダメージを受けます。今回の被害者は鬱などを発症しませんでしたが、受けたダメージは同じです。
ダメージはお金に換えられるものではありませんが、まだまだ日本におけるパワハラ被害の補償は低いと言わざるを得ない判例です。
5.渋谷労基署長事件
別名・小田急レストランシステム事件とも言います。
通常パワハラと聞くと、上司や同僚から受ける事を想定しますが、この事件は部下から上司がパワハラを受けた判例です。
契約社員からパートに変えられた部下が逆恨みし、上司の誹謗中傷(横領や不倫している等)の虚偽のビラをまく行為を繰り返しました。
被害者が事実無根を訴え、認められるも、会社側は被害従業員に対してフォローをしない上に、始末書等の提出を求め、最終的に被害者は役職を解かれてしまいました。それが原因で被害者は鬱を発症。その後自殺を図り、最悪な結末となったのです。
遺族側は、パワハラによる労災認定を求め提訴。東京地裁により労災認定された判例です。
この判例は、役職や立場に関係なく、パワハラ被害と言うのは身近に潜んでいると知らしめた判例の1つです。
まとめ
いかがでしたか?
判例を読んでいくと、初めは些細な出来事が、ちょっとした行き違いでどんどんエスカレートし、その果てに卑劣なパワハラ行為が存在していることがお分かりではないでしょうか。
加害者にならないことはもちろんの事、被害者になった場合、泣き寝入りなどせず、公的手段等を利用し、公表することも必要です。
身近に潜んでいる!?パワハラ5つの判例
- 川崎市水道局事件
- 松蔭学園事件
- 国際信販事件
- ネスレ事件
- 渋谷労基署長事件